「元付業者による正当な事由のない紹介拒否の禁止」。東日本REINS(レインズ/東日本不動産流通機構)の規定に2013年10月1日、この文言が追加されたことで、業界に大きな衝撃が走ったことは、あまり知られていません。不動産仲介業者の業績に甚大な影響を与えかねない規定です。

REINSとは、国土交通大臣から指定された機構が運営するコンピュータ・ネットワーク・システムの名称。不動産の売買・賃貸物件情報や成約価格情報が登録されている、いわば「業者間情報ネットワーク」です。不動産仲介会社が購入希望者から物件情報の提供依頼を受けたら、このネットワークから物件検索し情報提供を行ないます。利用できるのは業者だけで一般には公開されていません。 

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                                (東日本不動産流通機構HPより)

ところがこの“物件情報囲い込み”は、あくまで内部で行われるため決定的な証拠がつかみにくく、なかなか顕在化しませんでした。先の文言が衝撃的なのはなぜか?私たちの業界ではなかば常識と化している「物件情報囲い込み」ができなくなってしまうからです。 自宅を売却する際には一般に「不動産仲介業者」(宅地建物取引業者)に売却を依頼することになります。このときには、1社のみに売却を依頼する「1.専属専任媒介」「2.専任媒介」と、複数社に依頼する「3.一般媒介」とがあるのですが、1・2の場合、依頼先は1社であってもREINSに物件情報を登録するため、情報が仲介業者に、またその先にいる購入希望者に広く知れ渡るということに、表向きにはなっています。

しかし、実態はそうではありません。物件情報をREINSに載せない、載せて証明書をとったらすぐに情報を削除してしまう、載せてはいるものの「いま契約交渉中です」などとして実質的に情報を隠蔽するなどの行為が横行しているのです。なぜそんなことをするのかといえば「たくさんの手数料がほしいから」。理由はこれだけです。

不動産仲介業者は仲介手数料について、売主・買主からそれぞれ3%+6万円(税別)を上限に受け取ることができます(これはあくまで上限ですから、もっと低くても構わないのですが)。

専属専任や専任で売却依頼を受けた仲介業者は、売主からの3%+6万円の仲介手数料はなかば確保したようなものですが、もしこの仲介業者が買主も見つけたらどうなるでしょうか。そうです。買主からも3%+6万円の仲介手数料が得られ、その報酬は2倍に膨れ上がるのです。たとえば4000万円の中古マンションについて、売主担当として得られる仲介手数料は126万円ですが、買主からも126万円を受け取れれば、合計で252万円となります。

すごいですよね。不動産仲介手数料というのは、非常に高額です。

業界では、売主・買主どちらか一方からのみ手数料を受け取ることを「片手」、売主・買主双方から手数料を受け取ることを「両手」と呼んでいます。報酬の多い両手を狙うのが、担当者の成績や会社の業績を効率良く上げる近道です。

私がこの業界に入る前、不思議に思っていることがありました。 「街の不動産屋さんは、昼間からお茶飲んで事務所で談笑していたりしてぜんぜん仕事してなさそうなのに、どうしてやっていけるんだろうか」と。

それは、仲介手数料がそれだけ高額だからです。街の小さな不動産屋さんでも、せいぜい月に1-2件の取引をしていれば仲介手数料は数百万。だからそんなに実稼働かなくても高級車にも乗れるし、毎週のようにゴルフも行ける、年に何度もハワイに行けるのです。

もっとも最近は街の不動産屋さんも大変。昨今の不動産探しはインターネットやスマホで、というのが主流ですから、この流れに対応できないところはジリ貧です。

さて、物件情囲い込みに話を戻します。売主は、自分の物件情報が広く知れ渡らず囲い込まれているなど、もちろん知る由もありません。中には「派手に告知せず水面下で売ってほしい」といった要望もあるにはあります。芸能人・著名人とか、近所に知られたくないとか、離婚や破産などあまり良くない理由で売る場合などです。が、こういったケースはあくまで例外。大半の売主は、広く情報が行き渡ってほしい、つまり早く高く売りたいと思っています。あたりまえですね。

仲介業者が売却の依頼を受ける際には売主と「媒介契約」を書面で交わすのですが。この書面には当然、広く情報を行き渡らせる旨の文言が記載されています。しかし実際にそれを行わないとすれば、契約違反です。

企業としてコンプライアンス(法令遵守)がしっかりしている、誰もが知る大手企業なら大丈夫かといえば、そうでもありません。とある大手仲介会社では「物件情報の隠蔽をしてはいけない」といった内規はあるものの形骸化、現場ではいまだに守られていません。むしろデキる営業は売上が大きく上がる両手仲介を狙うわけです。自己の利益のために情報を隠蔽、結果として円滑な不動産流通を阻害し、売主・買主の利益を毀損するようなことが現場では横行しています。2015年にはこうしたことが暴露されましたが、実態は現在もさして変わりありません。

※大手不動産が不正行為か。流出する“爆弾データ”の衝撃  
http://diamond.jp/articles/-/69998

「不動産仲介業における物件の囲い込みはないと認識している」というのが大手や業界団体、もちろん多くの中小業者の言い分ではあります。しかし実際、現場で仕事をしている人は当然、実情をわかっています。不動産仲介に携わる人が周囲にいたら聞いてみてください。

こうした行為が半ば常識化している不動産仲介の世界では、この慣行に嫌気が差し業界を去る人も多く、実は私もその一人です。あとは仕方なくこうした慣行に従う人。理由は、そうしなければこの業界ではやっていけないから。なかには、業界の水に慣れきってしまい疑問すら抱かなくなってしまった人もいます。

売主の利益を無視してまで、両手取引狙いで客付けを妨害したり情報を出さなかったりするのは、売主の利益を著しく損なうのはもちろん、市場全体としてみれば流通阻害になっているのですが、なによりそこで働く業界人の心を蝕むところが、一番良くないなと思っています。なにしろ、やっていることは売主に対する背信的な行為です。また買主側の仲介業者も、隠されている物件を見たい・買いたいと要望する顧客に申開きができない状態。とてもではありませんが、自分や家族に胸を張って、誇り高い仕事をしているとは言えないでしょう。むしろ良心が傷みます。

かつては相撲の八百長問題が世の中をにぎわせたことがありました。取り組みの前に、勝敗を貸し借りする、いわば談合です。それまでは「証拠不十分」で逃げ切ってきましたが、警察が携帯のメールという証拠を握ったために、逃げることができなくなったのです。今回のREINSの規定改定も、各社内で行われていることについて、具体的な事実を握ることはなかなか困難で、実効性に乏しい側面があります。内部告発があったらおそらく大変なことになりそうです。

こういった「業界内の常識は世間の非常識」のようなことは、程度の差こそあれ、どの業界にもあるのかもしれません。

「一つの業者が売り手と買い手の両方から手数料を取る両手取引を原則禁止とします」 かつて民主党の勉強会で私がこのような状況について説明をしたところ、政権交代前に提示した「民主党政策集インデックス2009」にこうした公約が掲げられたことがあります。この公約に関しては、情報を囲い込まずに、たまたま結果としての両手取引であればなんら問題はないのですから「物件情報囲い込みの禁止」としたほうが適切でしたが、業界の猛反発に合い実行されませんでした。

要は、両手取引そのものが悪いのではなく、恣意的に物件を囲い込むのが良くないのです。

まずはシンプルに「物件情報を事実上、御社で囲い込んだりしないでしょうか?」と率直に聞いてみること。これだけでかなりやりにくくなります。あとは、私なら「囲い込まれていないことを確かめるために、他業者から連絡を入れてもらうかもしれませんがよろしいですか?」と聞きます。これで「NO」という業者はいないはず(というかNOと言えるわけはない)ですし、実際にやってみてもいいでしょう。普通はこれで防げるはずです。お試しください。