ご存じの通り、昨年の台風19号による浸水被害は「セレブの街」、JR武蔵小杉駅周辺のタワーマンションエリアも襲いました。タワマン10数棟のうち2棟が、川の水位が上がったことで配管から逆流する「内水氾濫」で地下階にある電気関係設備が浸水。各戸の電気はもちろん、エレベーターが使えず、高層階を階段で上り下りする負担を強いられる、水道ポンプが被災し水やトイレも利用できないといった状況が続きました。一般にタワマンの電気設備は地下階にあり、水が流れ込めば建物全体の電気系統が機能不全に陥ってしまうのです。

そもそも武蔵小杉駅周辺や多摩川周辺は、ハザードマップで浸水の可能性が指摘されていました。多摩川はかつて大きく蛇行しており、それを直線に付け替えつつ堤防を整備してきた経緯があります。そうしてできた土地に、戦後の高度経済成長期に工場が建ち並び、1990以降、バブル崩壊による工場撤退などで土地が売却され、自治体が同駅周辺の高度利用を意図して高さ制限や容積率などを緩和、そこにタワマンが続々建設されるといった、土地利用の変遷があったわけです。

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※武蔵小杉駅周辺の土地条件図。水色は旧河道(国土地理院地図より)


被災したタワマンでは、修繕のコストも莫大。電気系統の設備はとりわけ水に弱く、仮に修理できても、一度浸水した設備をそのまま長期的に使用できるかどうかは不透明です。水没コストについて、火災保険の「水災補償」で賄えるかどうかは、所有者で構成するマンションの管理組合が、どのような保険に加入しているかによりますが、水災補償はあくまで火災保険の「オプション」で、補償範囲は保険会社によって異なり、また一般的には「床上浸水」を補償基準としていることが多く、今回ケースに適用されるかどうかは不透明です。

日常のマンション管理を委託している「管理会社の責任を問うべき」との声も。しかし、管理会社はあくまで業務委託先に過ぎず、契約などで定められた管理会社対応に不備があったなどの明確な業務上の過失でもない限り、責任追及は難しいでしょう。売主に対する責任追及も、設計や工事に明白な不備やミスがあることを管理組合側が立証できなければ同様に責任追及は困難。そうなると修理のコストは、管理組合の「修繕積立金」から捻出することになるものの、修繕積立金は一般的に、あくまで建物や設備の老朽化に備えるもので、今回のような大規模災害による被害は想定しておらず、マンションの長期修繕計画にも支障が出るのは必至です。そうなると、ただでさえ割高なタワマンの修繕積立金に、区分所有者に追加負担金が発生することになってしまいます。

今回の災害を受け一部のタワマンでは、地下階にある電気設備を地上階に移動できないか検討しているが、それもあくまでスペースあってこそ。上階に必要十分な空間がなければそもそも移動が不可能なケースもありそうです。電気設備の周りに水をせき止める止水版を設置するなどの予防策を検討しているところもあるものの、設備が地下にある以上その効果は万全とは言えません。被災したタワマンを含む12棟が連名で、福田紀彦川崎市長に再発防止策として「完全な逆流防止策」のほか「緊急連絡や避難場所の確保」「マンション予備電源の高層階移設への支援」などを盛り込んだ要望書を提出しており、今後の再発防止策とその効果が気になるところです。