マンション購入層が求める駅からの距離はどんどん短くなっています。都心7区の中古マンションの場合、5年前には駅から1分離れるごとに1平米あたり売却価格がおよそ8000円下がっていました。それが今では18000円以上も低下しています。

たとえば65平米の3LDKのマンションの場合、駅から1分離れるごとに約100万円、5分離れれば500万円は安くなるのです。

この背景には「自動車の保有率」が年々下がっていることと、「共働き世帯の比率」が高まっていることがあります。実際、自動車を持たない共働き世帯にとって駅から遠い物件は、保育園の送り迎えや買い物などが不便で非常に使いにくいでしょう。同じ価格の場合、『駅から20分の100平米の物件』より『駅から5分の70平米の物件』が選ばれるといったイメージです。要は「空間」や「居住快適性」より「時間」が重要視されているのです。

今後も自動車の保有率は上がるとは考えにくく、共働き世帯が増え続けるであろうことを考えるとこうした傾向は変わらないでしょう。加えて昨今は郊外の一戸建てに住んでいた団塊の世代も、高齢化とともに駅前のマンションに移住する傾向があります。家族が減れば多すぎる部屋は不要になりますし、車の運転もしなくなれば郊外には住みにくくなるからです。これは東京都心だけでなく、地方都市でも同じ現象が起きています。例えば千葉県の津田沼や神奈川県の海老名などでは、駅前のタワーマンションが相場よりもかなり高く売り出されましたが、すぐに完売しました。

日本最大級の不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」を運営するリクルート住まいカンパニー(東京)は、約15年前に利用者調査を実施しました。この時点で「駅近」を「徒歩10分以内」ではなく、「7分以内」と回答する人が多かったため、希望物件を検索する際の選択肢に7分以内を加えたそうです。今では多くのサイトが7分以内を選択肢に入れています。一見すると半端ですが、人間の心理的な感覚なのかもしれません。

一方、ある物件情報サイトでは、5年前は賃貸・分譲ともに10分以内が検索総数の90%を占めていたといいます。利用者が現実に、賃料やローンを払うことを考えると、候補を10分以内まで広げる必要があったのでしょう。それが現在では7分以内が90%となっています。「駅近」ニーズの高まりを受け、新築マンションを分譲・販売するデベロッパー(開発会社)は、駅からの距離が徒歩7分を超える用地の仕入れには非常に慎重になっています。

ところで、駅から「徒歩7分」というのは、あくまで不動産の広告表示上の数字で、実際にはもっとかかるケースが大半です。「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則(広告表記)」では「80メートルで(徒歩)1分と算出し、1分未満の端数も1分とする」と決まっています。しかし、実際には途中に信号や歩道橋があったり、坂道があったりすればその分、時間が余分にかかります。

また、例えば駅やマンションの敷地が広大な場合、広告表記では駅から最も物件に近い地点と、マンションの敷地で最も近い地点を結ぶため、現実的には家を出発してから駅に到着するまで、もっと時間がかかる場合もあります。

さらに、タワーマンションの高層階の場合、マンションの敷地から出る前と入った後にエレベーターに乗ることになります。朝の通勤・通学ラッシュ時に混雑した場合、エレベーターの「渋滞」で、マンションの敷地を出るまでに時間がかかってしまいます。

現在はこうしたことが考慮されていない広告表記ですが、将来的には表記の規則も変更される可能性があります。それ以前に、買い手や借り手の目が肥えてくれば、自ずと「実質的な移動時間」の指標が求められるようになってくるのではないでしょうか。今後人口の減少に拍車が掛かれば、買い手や借り手が求める「駅近」の距離は、もっと縮まることになるかもしれません。

しかし、必ず「駅前・駅近」の物件を選ぶべきなのかというと、必ずしもそうではありません。例えば将来的に不動産の価値が下落することをある程度想定したうえで、駅から遠いものの、自分たちが気に入った場所に住むという選択も決して間違いとはいえません。また、駅から遠いところでも、将来的に若い人たちの流入が見込めそうな場所なら資産価値の下落をあまり気にする必要はないでしょう。