• リノベーションが得意な中古住宅専門の不動産会社、
    株式会社しあわせな家、賃貸管理部の佐藤です。

    彼は、◯◯さんは、一体何者なのか?
    本当に詐欺師なのか?

    後日、Sさんの口から出た言葉には驚愕した。

    実はSさん、◯◯さんの行方を探るために、会社に残された様々な書類の中から、都内にある◯◯さんの実家を突き止めていた。
    そこには◯◯さんの母親がいた。

    事情を話したSさんに向かって母親は言った。

    「またやったのか!あいつは今どこにいる!以前にも似たような事を2度やってる。最初は福岡、2度目は大阪だ。いい加減にしてほしい。こっちもほとほと困ってる!」

    な、なんと、実績があった!
    完全に詐欺師である。
    あの真面目で爽やかな若者が詐欺師?
    不覚!欺された!まったく分からなかった!
    いや、相手は詐欺師なんだから当然か。

    しかも南は九州から北上している。
    次は私の故郷の仙台か?
    それとも思い切って札幌まで伸すか?

    Sさんは続けた。

    「民泊をするために、アパート1棟を借り上げていることも判明しました。しかも、すでに入居していた店子からの家賃は社長の銀行口座に入り続けているようです。もちろん、所有者に連絡をして対処しました」

    さらに、

    「社長は恐らく国内にいません。SNSも既に削除されています。遠くからほくそ笑んでると思うと、とっても腹立たしいです」
    と、拳を握り締める。

    思えば、電動カッターで扉の鍵を切断したあの日から逃亡は始まっている。
    まさか鍵を切断するなんて予測できなかった彼は、49階という超高層エリアで3軒隣のバルコニーに移動するという命懸けの行動に出た。
    恐らくはヤバい連中が強硬手段に出た、と思ったに違いない。

    「捕まったら命はない。なんとしても逃げなければ」

    慌ててキャリーバックを1つ抱え、靴も履かず裸足のままバルコニーに出て意を決した。
    幸い、鍵は簡単には切断されず部屋から姿を消すには十分だった。
    しかし、行き着いた他人の部屋のバルコニーで彼は固まった。

    「ここからどうしよう・・・」

    逡巡していると、そこの住人に見つかった。

    「ヤバい!」

    間もなく防災センターの職員がやってきた。
    不審者と見なされ1階に下りることになった。
    そこの1階事務所には警察も来るらしい。

    万事休す!

    ところが、彼にはまだ「運」が残っていた。
    エレベーターは苦手なので自分は階段で下りたい、と言ってみたところ職員が承諾したのだ。

    「よし、これはチャンスだ!」

    彼は果てしない階段を駆け下り、逃げた。
    一生懸命逃げた。
    裸足のまま。
    そして、逃げ切った。

    今は、とりあえずほとぼりが冷めるまで海外に高飛びか。


    また、保証会社はこんな話をしてくれた。

    「今回は、私どもの審査に穴がありました。◯◯さんの本人確認はパスポートで行いました。法人契約のため、代表者の住民票までは求めていません。そこが盲点でした」

    え? どゆこと?

    「なぜ免許証ではなくパスポートなのかということです。大概の人が免許証を持っていると仮定すると、本人確認の際にわざわざパスポートを出すのには理由があるのです。分かりますか?」

    いや、さっぱり。
    パスポートだって顔写真が付いてるし、何か問題でも?

    「免許証は必ず5年内には更新があります。ところが、パスポートはMAX10年は変わりません。どちらも途中で住所が変わっても変更の義務はありませんよね?」

    はい。つまり?

    「現住所や過去の住所履歴を知られたくない理由があるから免許証を出さなかったのです。そこから足が付くのを恐れているのです。何らかの犯罪に関わっている可能性は高いと思います」

    あっ!

    そう言えば、思い当たることがある。
    入居審査の時に提出してもらったパスポート、会社謄本、入居申込書の◯◯さんの住所が全て異なっていた。
    その時は「へえ~、色々苦労してるんだなぁ」くらいにしか感じなかったが、
    まさか犯罪の匂いがするとは。

    とすると、恐らく今回のタワーマンションにも住民票は移していないだろう。


    27歳の若者は、今も国外のどこかで、虎視眈々と次のターゲットを狙っているのだろうか?
    仙台か。札幌か。もしくは・・・。

    それにしても、あの光景を思い出すと、未だに納得出来ない自分がいる。

    窓際に置かれた商売繁盛のお札とお神酒。
    ん? もしや、あれも計算のうちか。

    了。

    佐藤 勝也のブログ

    うっかりして気付かず見落としてしまうことを、よく「盲点」と表現します。そして盲点は、よくよく考えれば実は他愛もないことが多いのですが、見つけ難く気付かないままの盲点もあります。そんな様々な盲点に光を当て、困ってるオーナー様の一助になれば幸いです。