• リノベーションが得意な中古住宅専門の不動産会社、
    株式会社しあわせな家、賃貸管理部の佐藤です。

    翌朝9時にSさんがマンションのエントランスに現れた。
    若い。聞くと社長より3つ下だと言う。
    さらに、そのタワーマンションに住む知り合いだという2人も現れた。
    Sさんが呼んだらしい。
    平日の朝9時に2人ともスウェット姿だ。
    普段何をしているのか。

    ここの高額な家賃を払っているのは確かだ。
    怪しい。
    Sさんが真面目に見えるだけに、余計違和感を感じてしまう。
    でもまあ、心配して来てくれてるようなので、良しとする。

    その2人はほんの数日前に社長の部屋に遊びに行ったと言う。
    えっ!
    私は驚いた。
    てことは、私からの留守電やメールのメッセージを確認しているはずではないのか。
    何だろう、この違和感は。

    さて、エレベーターに乗り玄関先に着く。
    改めてインターホンを押す。
    返事はない。
    扉を叩く。
    やはり返事はない。

    さあ、いよいよ開錠である。
    緊張する。
    「では、鍵を開けます」

    ガチャ。

    そして扉を開く。

    ガン!

    あれっ?
    何かが引っかかった。
    内側のロックバーがかかっている。
    えっ? 中にいる?
    そう、ロックバーは当然に内部からしかかけられない。
    誰かがいるのである。

    「〇〇さん、大丈夫ですかー!」

    少し開いた扉の隙間から声を掛ける。
    何度も。
    しかし、応答はない。
    物音すらしない。

    4人の顔が青ざめる。
    いよいよヤバい。

    「どうしましょう!」
    Sさんが叫ぶ。

    もはや、一刻の猶予もない。
    仕方ない。壊そう。
    オーナーさんへの報告は後回し。
    どうせこの時間は繋がらない。
    人命第一である。

    下請けの工事業者に連絡すると、午後の早い時間には来れると言う。
    電動カッターを持参するというから、恐らく切断するのだろう。
    この場は一旦解散し、午後1時に改めて集合することにした。

    弊社代表の山田と相談をし、警察に立ち会ってもらおうという事になった。
    近くの派出所に伺い事情を話すと、若い巡査がおり、「イイっすよー」とあっさりOK。
    とりあえずホッとした。
    また、念のためマンション1階の防災センターにも状況を説明し、準備完了。

    そして午後1時。

    私を含めた先の4人、巡査、工事業者の計6人が揃った。

    カッターの電源を入れ、早速作業に入る。
    ギャーン。
    金属と金属が擦れ合う結構大きな音だ。
    10分が経過。なかなか切れない。思いのほか丈夫だ。
    あとちょっとのところで、業者さんがハンマーを取り出した。
    最後、叩いて千切るつもりらしい。
    ガン、ガンと5、6回叩いたら、ロックバーがポトリと床に落ちた。

    一瞬の沈黙。

    若い巡査と目が合った。

    「では私が先に入室します。私がいいと言うまで入らないように」

    巡査はそう指示をするとすぐに玄関ドアを開けて部屋に入っていった。
    廊下の突き当たり左側の扉を開くとリビングダイニングがある。
    開け放した玄関ドアから皆で中を窺う。
    巡査の歩き回る足音と幾つかの扉を開ける音が聞こえるのみ。

    1分が経過。
    なんと長い1分か。
    緊張は最高潮である。

    とその時、奥から巡査の声がした。

    「一番奥の部屋に鍵がかかっていて入れません。どうしましょう?」

    あっ! そこにいる。
    とっさに4人ともそう思ったに違いない。
    そして誰かが言った。
    「そういえば、彼は奥の洋室を寝室にしてたよな?」
    4人とも寝室で息絶えて横たわっている彼の姿を想像したに違いない。

    あっ、それよりも巡査だ。
    「硬貨で回せば鍵は開くはずです!」
    私は大声で言った。

    あぁ、今度こそアウトだ。
    事故物件になってしまった。
    どうしよう。

    奥で巡査が言葉を発している。

    「えっ!?」

    同時に皆の動きが止まった。
    若い巡査の言葉はそれほど意外だったのである。

    続く・・・

    佐藤 勝也のブログ

    うっかりして気付かず見落としてしまうことを、よく「盲点」と表現します。そして盲点は、よくよく考えれば実は他愛もないことが多いのですが、見つけ難く気付かないままの盲点もあります。そんな様々な盲点に光を当て、困ってるオーナー様の一助になれば幸いです。